マンション売買は高額な商品のやりとりのため、残念ながら訴訟が起きることもあります。もちろん、訴訟に発展するほどトラブルが大きくなることは少ないですが、トラブル事例を知っておくことで、売主・買主ともに対策できます。
そこで今回は、マンション売買の事例をケース別に7例用意しました。これらの事例を確認して、どのような点に注意して取引すべきか理解しましょう。それが、マンション売買のトラブル防止にもつながってきます。
契約関係のトラブル事例
まずは、中古マンション購入を検討していた買主が、契約着手金の振込後に検討を中止したものの、契約が成立しているとして売主が契約着手金を返還しなかった事例です。概要や判決結果などを見ていきましょう。
※参考:RETIO 契約着手金と売買成立
http://www.retio.or.jp/case_search/pdf/retio/100-114.pdf
訴訟の概要
この事例の概要は以下の通りです。
- 買主は知人である売主の所有する物件を3,080万円で購入を検討
- 売主は物件の概要は説明したが内覧は個人情報という理由で拒否
- 契約着手金を支払うことで内覧して良いとし買主は約323万円振り込んだ
- しかし買主が検討を取りやめたので売主に着手金の返金を求める
- 売主は「契約は成立している」として着手金の返金はしなかった
内覧前に契約着手金を支払ったり、そもそも内覧をさせなかったりと、この事例は少々特殊な事例と言えるでしょう。
この事例を一般的な事例に置き換えると「申込金を支払ったが申し込みやキャンセルをしたので返金を要請した。しかし、売主が契約は成立しているとして返金を拒否した」というようなイメージです。
判決内容
この訴訟では、買主の主張が認められて、売主は買主へ契約着手金を全額返金するということになりました。以下の点がその理由です。
- マンション紹介の経緯を見ると売主は売却意思がないと受け取れる
- 買主からメールで申込、契約の意思があったのは事実
- しかし、金額や図面などの詳細を知らない旨のメールも残っている
- そのため、「詳細を検討した上での契約する」という意味と判断された
客観的に考えると、買主は物件を見る前の段階で、売買契約書も交わしていません。
しかし、上記の文脈からだと、仮に「詳細条件を知らない」旨のメールがなければ、契約したと見なされていたかもしれないとも読み取れます。
この事例から言えること
この事例から言えることは以下の点です。
- 熟考した上で売買する
- 安易に売買の承諾を文書として残るメールなどで通知しない
当たり前ですが、物件を見学して諸事情を確認した上で、マンションの購入を進めましょう。新築マンションの場合は実際の建物を見られません。しかし、不動産会社がしっかりパンフレットを作ったり、モデルルームで説明したりします。
中古マンションはそのようなしっかりとした説明がない分、実物を見ることで物件を確認するのが重要です。売主の立場からも、きちんと物件の説明をして、買主自らに良く確認してもらった上で契約しなければいけません。
また、売主も買主も、安易に契約の旨をメールなどで送るのは避けた方がよいでしょう。場合によっては、そのメールの内容によって契約の意思があると見なされる場合もあります。
メールでのやりとりは電子手段で保存されてしまうため、証拠として立証できる材料となり得ます。
錯誤によるトラブル事例
次は、分譲マンションを購入した買主が、駐車場について勘違い(錯誤)していた事例です。このような錯誤事例は、実物を見られない新築マンションに多いですが、中古マンションでも起こりうる話です。また、買主・売主ともに気をつけることで、このトラブルは対策できます。
※参考:RETIO 付帯駐車場の説明
http://www.retio.or.jp/case_search/pdf/retio/96-110.pdf
訴訟の概要
訴訟の概要は以下の通りです。
- マンション購入のためモデルルームへ来訪
- そこで駐車場などの模型や展示物を見学
- 営業担当者は入居者には駐車場が割り当てられていると説明
- 買主はパンフレットなどを見て駐車場は屋内であると思っていた
- しかし内覧にて屋根はなく雨や風にさらされることが判明
- 買主は錯誤による契約の白紙解約を求めた
とくに、新築マンションの場合には、マンションが完成する前に販売をはじめます。そのため、駐車場の形状などを勘違いするケースは少なくありませんし、営業マンがどのように案内しているかは特定できません。
また、営業過程の会話は録音しているわけではないので、「言った・言わない」の問題になりやすいのも事実です。
判決内容
この事例での判決は、買主の請求はすべて棄却されて、売買契約は白紙解約になりませんでした。その理由は以下の通りです。
- 資料などから「屋内駐車場」と営業側が伝えた証拠がない
- 買主の主張から買主が資料を見て勘違いしていた可能性もある
- 買主が被る不利益は生活環境を一変させるものではない
- 売主側は模型などで十分にわかりやすく説明している
このように、買主がパンフレットなどの資料を読み、勝手に屋内駐車場と判断したことが原因とされました。
また、車が駐車不可能などの状態ではなく、大きな支障がないと判断された点も大きかったようです。
そして、パンフレットや模型、営業マンの説明の中で、すべての駐車場が屋内であるという旨の説明がなかった点は大きな要因と言えるでしょう。
この事例から言えること
この事例から言えることは、買主は自己責任での確認が必要であり、売主もできるだけリスクヘッジして説明しておくことが重要ということです。
新築マンションの場合は実物を見られないので、気になる点は営業マンにきちんと聞いておくなどの対応が必要です。
また、中古マンションは実物が見られますが、駐車場の正確なサイズなどは目視しただけではわかりません。そのため、駐車場に限った話ではありませんが、採寸や動作確認などは必ず行うようにしましょう。
この点は売主も同じです。とくに、築年数の古いマンションは、給湯器の故障や、窓やドアの開閉に問題がある事例も多いです。そのため、たとえば給湯器が壊れていなことの証明のために、売主・買主立会いの下で作動してみるなどの対応が重要といえます。
また、それらの動作確認をしたら、「設備確認表」などの書面にて残しておくことが重要です。
ローン特約に関するトラブル事例
つづいて、ローン特約に関するトラブル事例です。ローン特約とは、住宅ローンの本申込で非承認、もしくは定めた期限までに回答がなかった場合、売買契約は白紙解約になるというものです。
本来、売買契約をキャンセルするときは、手付金がそのまま違約金となり没収。しかし、「売主の責任ではない」という前提で、住宅ローンの本申込が否決になれば、手付金は返金して売買契約は解除できるのです。
今回は、そんなローン特約に関するトラブル事例の紹介です。
訴訟の概要
今回の訴訟概要は以下の通りです。
- 買主は業者からマンションを購入し手付金100万円を支払う
- 残代金4,780万円を銀行から借り入れる予定で契約
- 買主はすでに銀行の事前審査をしており承諾を得ていた
- 本申込時には事前審査の金額を上回る金額で申込
- 3行のうち2行は否決となり1行は期限までに結果が出なかった
- 買主はローン特約に基づき解約を申し入れる
- しかし売主がこれを拒否した
売主からすると、買主が何かを懸念してキャンセルしたいと思い、本申込がキャンセルになるように仕向けたという主張。
本申込が否決になれば、手付金は没収にならず返金の上で白紙解約になるというわけです。
売主がそう思ったいきさつとしては、売買契約書を締結した後に、買主が「眺望面」などの理由で白紙解約をしたいと主張していたことが挙げられます。
また、事前審査よりも高い金額で本申込しているなどという点が、あえて本申込が否決になるように操作したと売主は思ったというわけです。
判決内容
今回の訴訟では、売主の主張が認められ手付金は返金(白紙解約)されました。その理由は以下の通りです。
- 売主は買主が虚偽の申告をしたと主張
- しかし、その虚偽は携帯電話13万円の分割の申告漏れ
- そのため申告が虚偽とは認められない
- 本申込で増額して申し込んだ点には買主の非を認めている
- しかし、金額が小さいことと増額が諸費用分という点で妥当性を認める
- また本申込時の金額上限はとくに明記していなかった
今回の焦点は、「ローン特約で契約を白紙解約するために、買主が故意に本申込に落ちるように仕向けたかどうか」という点です。
その意味では、先ほど言ったように、本申込時に増額した点と、申告漏れがあった点を売主は主張しています。しかし、上記の通り本申込時の増額分が少なく、「諸費用分を増額」という妥当性があったので認められませんでした。
また、申告漏れについても少額であり、起こりうるミスではあるので、買主が故意に行ったわけではないと判断されました。
この事例から言えること
この事例は、買主の立場というよりはマンションを売却する立場として、以下の点に注意しましょう。
- 住宅ローンの審査をコントロールする
- 売買契約書に融資金額を記載する
マンションを売却するときに購入者がローンを組む場合、不動産会社が提携している金融機関を利用することが多いです。その際、上述した「事前審査よりも高い金額で本申込する」などのことがないように、営業担当者にしっかりコントロールしてもらいましょう。
また、売買契約書に借入金額を明記し、諸費用なども金融機関で借入しない旨を購入者に確認することが大切です。いずれにしろ、この訴訟事例は営業マンのコントロール不足という点が大きいので、売主の立場から営業マンをきちんと管理しましょう。
また、住宅ローンは不動産会社丸任せではなく、買い手自身が下記のようなサービスで仮審査に申し込むことでコントロールを買い手側で持っておくができます。
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瑕疵に関するトラブル事例
次の事例は、「瑕疵」についてのトラブル事例です。そもそも瑕疵とは、「きず」「欠陥」のような意味があります。今回の訴訟事例の瑕疵に関しては、眺望に関しての瑕疵です。住んでいるマンションの眺望権を主張した事例であり、主に購入者の方は気をつける必要があります。
※参考:RETIO 超高層マンションの眺望権
http://www.retio.or.jp/case_search/pdf/retio/71-104.pdf
訴訟の概要
今回の訴訟の概要は以下の通りです。
- 28階建てのマンションをX社から購入
- その後近隣にX社が38階建てのマンションを建築
- その38階建てのマンションの影響で眺望が阻害
- 38階建てマンションの計画の説明がなかった
- 以上の理由から建築中止または損害賠償を求める
28階建ての高層マンションということもあり、ホームページに載せているCG画像やパンフレットなどは、眺望面を売りにする資料になっていました。
しかし、その状況でありながら更に高いマンションを自社で建築し、その計画を説明しなかったという点が、この訴訟の焦点です。
判決内容
今回の判決内容は、買主の主張がすべて棄却されました。その理由は以下の通りです。
- 眺望権とは入居者が独占的に受け続ける利益ではない
- 眺望が良いのは「たまたま良い」だけでありこれを独占する権利はない
- そのため、眺望を阻害する建物建築は法律上問題ない
- パンフレットなどは眺望面を売りにしているのは事実
- しかし、「売却時の眺望」に噓偽りはない
- 将来的に眺望が阻害される可能性がある旨の説明はしていると判断
このように、眺望権は未来永劫つづくわけでなく、将来的に眺望が阻害されることはあるという判決です。また、不動産会社の説明義務については、重要事項説明などを基にきちんと説明されていると判断しています。
この事例から言えること
この事例から言えることは以下の点です。
- 将来的なリスクを加味して検討する
- 売主側もリスクがあれば伝える
マンションをはじめ、不動産全般は周辺環境が変わることは良くあります。とくに、近隣物件の影響で、眺望や陽当たり状況が変わることは少なくないので、購入者はその点を加味して購入しなければいけません。
今回の件は、恐らく不動産会社は具体的な建築計画を明示していなかったのでしょう。しかし、重説には将来的に変化するリスクは記載されているので、その文言で説明したものと見なされました。不親切という見方もありますが、やはりその点は自己責任なのです。
とはいえ、中古マンションを売却するときには、今回のような法人が売主ではなく個人が売主です。仮に訴訟になれば消耗してしまうので、売主側が知っているリスクや瑕疵については、すべて説明しておきましょう。
もちろん、リスクや瑕疵は隠した方が売却しやすいですが、このようなトラブルに発展するという可能性があるのです。
手付金に関するトラブル事例
さいごに、手付金に関するトラブル事例です。今回紹介するケースは中古の一戸建てではありますが、これはマンション売買時でも同じことが言えます。
※参考:RETIO 調査義務違反にもとづく事例
http://www.retio.or.jp/case_search/pdf/retio/91-076.pdf
訴訟の概要
今回の訴訟概要は以下の通りです。
- 不動産会社Z社の仲介により一戸建ての売買が成立
- 東日本大震災が発生し売主は被害状況をZ社に質問
- Z社は建物に傾きはないと回答
- 買主が本物件の引き渡し後に傾きを確認
- 傾きに関して売主は補修を申し出たが買主は手法に不満
- 買主は手付金解除など全額返金の上で説明義務違反の損害賠償請求
このように、震災が起きた影響で家に問題がないかを問い合わせて、問題がないと回答されたものの、実際には傾きがあったことで提訴した事例です。
判決内容
訴訟の判決は、買主の請求は棄却されたという内容です。その理由は以下の点です。
- 不動産会社の媒介契約の役目は契約時点で終わっている
- ただ、契約後の買主からの要請により義務は生じる
- とはいえ任意に調査するものであり積極的な義務はない
- そのため、建物の傾きを発見できなかった仲介会社に非はない
媒介契約はあくまで売買契約までの義務であり、その後は努力義務のようなイメージです。そのため、仲介会社が正確に建物瑕疵を把握する義務はなく、傾きがなかったという申し出に非はないと判断されました。
この事例から言えること
この事例から言えることは以下の点です。
- 実物を自分の目で確かめる
- 仲介会社に頼りすぎない
仮に、震災があって建物の瑕疵が心配なのであれば、自分の目で確かめるべきでした。売主が居住中とはいえ、不測の事態での確認なので、引渡し前に室内確認をしておけば、このような事態にならなかったと思われます。
この点から、仲介会社に頼りすぎてはいけないとも言えます。仲介会社も万能ではないので、瑕疵をすべて把握することはできません。そのため、不測の事態や心配事があるのであれば、必ず自分の目で確かめるようにしましょう。
まとめ
このように、マンション売買に関してトラブル事例の一部を紹介しました。契約や手付金、眺望面など色々な面から訴訟が起こっていることがわかると思います。
これらの事例を基に、売主・買主が勘違いしたり、事前確認が必要だったりする部分をイメージしておきましょう。買主も売主もリスクをイメージすることで対策が取りやすいと言えます。
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