相続登記は、相続時に行うべき登記のことです。しかし、財産や相続人の選定、財産の分割内容協議など、色々と大変なことが多くなります。そのため、相続登記せずに不動産を放置しているケースがあり、それにはリスクがあるのです。今回は、その8つのリスクを解説していきます。
相続登記とは?
そもそも相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった時に、被相続人(亡くなった人)から相続人へ名義変更する手続きです。しかし、実は相続登記には期限がないので、被相続人の名義のまま放置していても法的に罰せられることなどはありません。
登記手続きは面倒で費用がかかる作業なので、この相続登記を放置する人が少なくないのです。しかし、相続登記を放置すると、所有者自身はもちろん、近隣にも迷惑がかかるというリスクがあります。次項より、そのリスクを1つずつ解説していきます。
所有権の複雑化
不動産を相続するときは、単体ではなく複数の相続人で所有するケースもあります。いわゆる「共有名義」というもので、この場合は相続登記するまでの期間は全員で共有しているという状態です。その状態で、相続人が亡くなると、さらにその妻や子供に相続されます。
たとえば、A、B、Cが土地を共有で相続するときに、相続登記を放置していたとします。仮に、1年後にBが亡くなったら、Bの相続人である妻D、子E、子Fが相続の権利を与えられます。つまり、相続登記を放置することでA、B、Cが相続人だったのが、A、B、D、E、Fが相続人になるということです。
仮に、相続登記していれば、妻D、子E、子FはBの持ち分をそのまま相続登記するだけです。しかし、A、B、D、E、Fが相続人の状態になると、元々の相続人であったA、Dも含めて全員で相続登記手続きが必要なので、コミュニケーションを取るのが大変です。
不動産を売却・賃貸するときには、名義人全員の同意が必要になるため、相続人同士で話し合って、共有ではなく単体での所有に変更することもあります。そのようなときでも、相続人がたくさんいたら話し合いが難航するリスクがあるということです。
裁判所を通すケースが出てくる
相続人が認知症などを発症すれば、判断能力がないので相続人自身に成年後見人を選定します。その成年後見人を選定するときには、裁判所に申請をするなど色々な手続きが必要な上に、費用もかかってきます。
さらに、裁判所に成年後見人を申請しても、申し立てから選定されるまで数か月の期間がかかるのです。そのため、成年後見人が選任されるまでの数か月は、相続協議もできませんし、不動産を処分することもできません。
仮に、相続不動産を「すぐに売りたい」などの状況のときも、成年後見人の選定が完了するまでは何もできないということです。
行方不明者がいる場合の手間
相続登記をせずに放置すると、相続人の中で行方不明者が出るかもしれません。あまり多いケースではないと思いますが、数十年の期間のうちにはあり得る話です。相続人が行方不明になってしまうと、通常の相続登記ではなく以下のようなパターン別で相続登記の方法が異なります。
- 行方不明者と連絡が取れない
- 生存しているはずだが居所がつかめない
- 7年以上居所がつかめない
上記のどのケースにしろ、手続きが煩雑になり手間がかかる点は、相続登記を放置するリスクと言えるでしょう。
行方不明者と連絡が取れない
行方不明者と連絡が取れなければ、行方不明者の戸籍を追って本籍地の役所で取得できる「戸籍の附表」という書類を取得します。戸籍の附票があれば、行方不明者の現在住所を確認することが可能です。
現在住所を確認できれば、その住所宛てに手紙を送ったり、直接訪問したりすることができるので、遺産分割協議や手続きすることができるようになります。
生存しているはずだが居所がつかめない
ただし、戸籍の附表を取得しても、必ず居所が分かるわけではありません。どうしても住所が分からない場合には、次は家庭裁判所に「不在者財産管理人選任の申し立て」を行います。要は、相続人が不在だけれども、ほかの相続人が代わりに遺産分割協議などを行うという申し立てです。
不在者財産管理人は、行方不明者と利害関係にある「ほかの相続者」や検察官が申し立てをします。ただ、申し立てをしてから不在者財産管理人に選定されるまで3か月以上かかるのが通常なので、相続登記しようとしても時間がかかってしまいます。
7年以上居所がつかめない
行方不明者の居所が7年以上分からない状態であれば、家庭裁判所に「失踪宣言」を申し立てることで対処できます。失踪宣言をすれば、行方不明になったときから7年後に亡くなったものと見なされるので、その行方不明者が不在でも相続登記ができるのです。
ただし、その行方不明者に妻や子供などの相続人がいれば、その相続人は不動産を相続する権利を有します。そのため、相続登記はできるようになりますが、上述した「所有権の複雑化」というリスクは残ってしまいます。
相続登記ができない状況になる
相続登記には、被相続人の「住民票の除票」や「戸籍謄本」が必要です。ただし、これらの書類は役所へ永久に保管しておくわけではないので、いざ相続登記をしようとしたときに取得できない可能性があるのです。
たとえば、「住民票の除票」であれば被相続人が亡くなったときから5年、「戸籍謄本」であれば50年か80年の保存義務があります。もちろん、この保存義務が終了してすぐに捨てるわけではないでしょう。
しかし、役所によって対応は異なると思うので、数十年も放置していれば取得できない可能性は十分にあり得ます。さらに、前項までと同様、行方不明者がでるなど、別のリスクも発生する可能性があります。
不動産の売却や担保提供ができない
先ほどの少し触れましたが、不動産は名義人でないとその不動産を処分できません。つまり、相続登記を放置すると、不動産の売却もできませんし、その不動産を担保にして融資を受けるなどもできないのです。
そのため、売買も賃貸も担保提供もできないのに、固定資産税・都市計画税だけは払う必要がある状態が続きます。ただ、被相続人が生前に結んでいた売買契約などは、その不動産を引き渡す前に被相続人が亡くなっていても有効です。
とはいえ、早めに名義変更をしておき、いつでも売却や担保提供など、不動産を活用できる状態にするのが望ましいと言えます。
差し押さえされる可能性がある
相続人の中で借金をしている人がいて、その借金の返済が滞っている場合には、その借金の債権者が相続財産を差し押さえるケースがあります。仮に、土地を1/3ずつX,Y,Zが相続するとします。この状態で、仮にZに借金があり、債権者Sに相続財産を差し押さえられたとします。
このケースの場合には、債権者SがZの代わりに1/3の持ち分を相続登記することができ、さらにその持ち分を差し押さえ登記することが可能になってしまうのです。つまり、X,Yからすると、全く知らない第三者と共有名義で土地を所有することになるのです。
もちろん、差し押さえ登記をするということは、所有者と同じ権利を有するので、その債権者Sを無視して土地を売却するなどはできません。相続人が親族のときですら協議が難航するケースがあるので、第三者でしかも債権者であれば更に難航するリスクは高まるでしょう。
不動産賠償を受けられない
不動産の所有者は「不動産賠償」という補償があります。不動産賠償とは、契約違反や事故、不法行為などによって不動産が受けた損害を補償することです。賠償の対象者は、現実的には住んでいる人を対象にしますが、原則はその不動産の所有者が対象です。
そのため、相続登記していないと、被相続人が賠償の対象となります。仮に、その家に住んでいれば登記しなくても対象になるケースもありますが、住んでいない場合には賠償されないでしょう。
空き家問題
最後に、相続登記をせずに不動産を放置すると、空き家になることで以下のリスクが発生します。
- 急激な老朽化
- 災害リスク
- 犯罪リスク
建物は居住していないと、換気もされないですし、掃除もしないので老朽化が早いです。また、老朽化すれば、建物が倒壊するリスクなどもあります。
さらに、客観的に空き家ということが分かれば、放火したり不法占拠したりという、犯罪に巻き込まれるリスクもあるのです。相続登記を放置すると空き家になるケースも多いため、活用する予定がなければ相続登記をして迅速に処分すべきでしょう。
まとめ
このように、相続登記を放置してもメリットはなく、むしろ上述したリスクが発生してしまいます。そのため、近い将来その不動産を活用する予定がなくても、とりあえず相続登記はしてしまいましょう。特に、相続人が複数いる場合は、面倒な手続きになりやすいので要注意です。
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