不動産の中には「心理的瑕疵物件」と呼ばれる物件があります。このような物件は通常の売買とは異なり告知義務があったり、それを怠ったら訴訟になったりするので注意が必要です。
また、購入者側も告知義務のルールについて知っておくことで、心理的瑕疵物件の購入時のリスクヘッジになるでしょう。今回は、そんな心理的瑕疵物件について詳しく解説していきます。
心理的瑕疵物件とは?
心理的瑕疵物件とは、以下のような物件のことです。
- 事故死があった物件
- 自殺があった物件
- 他殺があった物件
簡単にいうと、そこに住む人が心理的に嫌な思いをする物件が「心理的瑕疵物件」になります。そのような物件を売却するときには、購入者に告知する義務があります。しかし、心理的瑕疵を感じるかどうかは人によって異なります。
人によって感じ方が違うとは?
たとえば、一戸建てを売買するときに、その敷地で20年前に他殺があったとします。さらに、その土地は一度更地で駐車場・トランクルームを経てから建築されました。
このように、20年も前のことで、別の用途としても使われていたことから「心理的瑕疵なし」と判断する人もいるでしょう。
しかし、その他殺が猟奇的殺人であり、20年経った今でも近所の人が知っているレベルであれば、心理的瑕疵と感じる人はいるかもしれません。
心理的瑕疵は曖昧
このように、たとえば「他殺があった」といっても、その物件でいつ・何が起きたか?は物件ごとに異なりますし、事件の内容も異なります。そのため、その家に住んで嫌な思いをするかどうかは人それぞれです。
このような背景があるので、心理的瑕疵物件に該当するかどうか?に明確な定義はなく、非常に曖昧といえます。そのため、心理的瑕疵があるかどうかは、物件を売買するときには注意が必要なのです。
売買時の告知義務について
次に、物件売買の告知義務について以下を知っておきましょう。
- 告知するタイミングと方法
- 告知するかどうかは不動産会社に確認
上記については、特に心理的瑕疵物件の可能性がある物件を売る側は要注意です。後述しますが、告知義務違反をしてしまうと大きなリスクがあります。
告知するタイミングと方法
仮に、自分の物件が心理的瑕疵物件に該当するとしたら、その旨は売買契約の締結までに告知する必要があります。売買契約前であればいつでも良いですが、できるだけ早めに告知した方が良いでしょう。
というのも、売買契約直前に告知することで購入者が不信感を持ち、購入意欲が一気に下がる可能性があるからです。そうなると、最悪の場合には検討見合わせになる可能性もあります。
そのため、購入者が本格検討している段階で告知するのがベストなタイミングといえます。告知方法は、契約前までは口頭でも構いませんが、重要事項説明書には盛り込まなければいけません。
告知するかどうかは不動産会社に確認
また、心理的瑕疵があるかどうかは売主自身で判断してはいけません。なぜなら、上述のようにその物件で起こったことによって…購入者によって…感じ方は異なるからです。
そのため、少しでも心理的瑕疵物件に該当しそうなことがあれば、不動産会社に必ず相談しましょう。不動産会社は、その物件で何が起こったかを正確に知ることはできないので、伝えないと分からない可能性があります。
告知義務違反のリスク
前項までで、心理的瑕疵物件とはどのような物件か?を告知するタイミングや方法・注意点などが分かったと思います。次に、売主が告知義務違反をした場合のリスクについて事例を交えて解説していきます。
告知義務違反するとどうなるか?
心理的瑕疵疵物件の告知義務は宅地建物取引業法(宅建業)に定められているので、義務違反をすると宅建業法違反になります。
具体的には、購入者側から裁判を起こされ、以下のようなリスクが考えられます。
- 遡っての売買契約の解除
- 上記に伴う違約金の請求
- 損害賠償の請求
このように、遡って契約が解除されれば、当然ながら売買金額は返金する必要がありますし、違約金や損害賠償請求という大きなリスクもあります。
告知義務違反に関するトラブルリスク
では、実際の裁判例を基に、告知義務違反をしたときのトラブルリスクについて見ていきましょう。今回紹介する事例は以下です。
- 5か月前に自殺があった物件
- 自殺を図ったあとに別の場所で亡くなった事例
- 買主側の主張を棄却した事例
5か月前に自殺があった物件
まずは、売買契約の5か月前に中古住宅売買時に建物内で絞首自殺があった中古住宅の売買事例です。結論からいうと、裁判所は買主の損害賠償請求を認めました。
中古住宅が築古だったので「査定額がゼロ円」であったため、売主は「告知義務は免責となる」と判断し告知義務をせずに売買契約を締結しました。
しかし、裁判所は以下の理由で売主には告知義務があると判断し、買主側の損害賠償を認めたという結果です。
- 事件が最近のできごとであったこと
- 本件は居住用として購入したこと
自殺を図ったあとに別の場所で亡くなった事例
次の事例は、6年11か月前に物置内で農薬自殺をはかり、その4日後病院で亡くなった事例です。
売主側としては、6年経過している点、その場で亡くなっているわけではない点、そして場所が農山村地帯なので周囲に噂が立っていないという点で、買主に告知をしませんでした。
しかし、こちらも前項と同様、裁判所は買主の主張を認め、売主の告知義務違反として売買契約の解除を認めています。
- 6年という期間は「長期」ではない
- 農山村地帯であるものの影響はある
買主側の主張を棄却した事例
さいごは、買主側の請求を棄却し告知義務はないと判断した事例です。この事例は、売買契約の約2年前に縊首自殺があった中古住宅の売買事例になります。
買主は、建物を購入し取壊した後に建売住宅の販売を検討していましたが、売買契約後に告知義務違反として訴訟を起こしています。ただ、以下の理由で裁判所は買主側の主張を棄却しました。
- 嫌悪の対象は建物の中の一部の空間に留まる
- 建て替えるので特定できない空間に変容している
上記は棄却されましたが、人によっては心理的瑕疵と感じる人もいるでしょう。また、場合によっては、前項までのように買主の主張が受け入れられるかもしれないので、売主は同じような物件の売買だからと言って告知義務無しと判断するのは危険です。
そして、買主の立場からすると、たとえ物件内で自殺があっても、このように告知義務なしと判断される場合もあるという点を頭に入れておきましょう。
告知義務がある物件を売るポイント
さて、仮に告知義務がある物件売る場合、通常通り売るのではなく以下のように売る方法があります。
- 更地にして売る
- リフォームして売る
- 買取業者に買い取ってもらう
ただ、上記の売り方はメリットもでメリットもあるので、やはり不動産会社の担当者と相談した後に判断した方が良いでしょう。
更地にして売る
一戸建ての場合には更地にして売却するという方法があります。上述した「買主の主張が棄却された=売主に告知義務なしと判断された」事例のように、事件が起こった空間が変容していれば告知義務なしと判断する可能性があるからです。
また、少なくとも更地にすることで、建物内で事件が起こった物件であれば買主の心理的不安も和らぐでしょう。ただし、築浅物件で建物にも価格が付くのに売るどうかは慎重に判断しなければいけません。
たとえば、数か月売却活動をして様子を見る…など、物件見学者の反応を確認してから判断するという方法もあります。
リフォームして売る
また、前項と同じく「事件のあった空間を変容される」という意味で、リフォームしてから売るという方法もあります。特に、マンションの場合は更地できないので、心理的瑕疵物件を売却する手段になるでしょう。
ただし、こちらも前項の「更地にする」と同じく費用対効果は読めません。そのため、売却活動をして様子を見てから判断することをおすすめします。
買取業者に買い取ってもらう
さいごに、買取業者に買い取ってもらうことです。そもそも、通常の物件売却は、不動産会社に買主を見つけてもらい「仲介」してもらいます。
一方、仲介ではなく買取という方法もあり、買取は買取業者(不動産会社)自体が購入します。買取業者は買い取った後に転売するので、一般個人よりも心理的瑕疵を受けにくいので売りやすいでしょう。
ただし、通常の買取でも相場価格の7~9割ほど価格が下がるので、心理的瑕疵があるとなるとさらに価格が下がります。そのため、まずは買取業者に査定依頼をして、その金額をもって判断することをおすすめします。
まとめ
このように、心理的瑕疵物件を売る側は、まず告知義務があるという点を理解しましょう。そして、告知義務があるかどうか分からないときは、自分自身で判断せずに不動産会社に相談することが重要です。
一方、買主側は心理的瑕疵物件という存在を知り、必ず売主から告知を受けるという点を理解しておきましょう。